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全損型「節税保険」に遂にメスが!

みなさん、こんにちは。

今日も一を足してく!

 

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はじめに

 

昨年の6月ごろから下記のような報道がありました。

内容は、法人向け定期保険、いわゆる「節税保険」の実態調査を行う、というもの。

この「節税保険」とは、支払った保険料の全額が損金算入され、かつ、高い解約返戻率を特徴とする法人向けの定期保険のこと。

「節税保険」の販売が過熱してきたことで、金融庁国税庁が問題視し、このような調査に発展しました。

 

www.asahi.com

 

調査の結果を受け、国税庁は「節税保険」の取扱いについて、下記の法人税基本通達の改正案を公表しました。

 

http://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000186086


この改正案では、最高解約返戻率にフォーカスして損金算入額を制限しており、最高解約返戻率が50%を超える定期保険等について制限の対象とされています。

 

「節税保険」のなにが問題?

 

「節税保険」の問題点は、ズバリ「将来お金が返ってくるのに、その積立を損金算入して、税金を安くできる。」ことにあります。

 

基本的に、法人向け定期保険の保険料は、その全額を損金算入することができます。

これは、法人向け定期保険は、保険金を受け取ることができる一定期間を過ぎれば、なにも返ってこなくなるため、掛捨ての保険といえるためです。

 

しかし、最近の法人向け定期保険や、がん保険などの第三分野保険については、様々な問題から保険料の全額を損金算入すると、税金計算上の問題が生じることから、一部しか損金算入できない、という国税庁からの規制があるものもあります。

 

最近、販売が過熱していた「節税保険」は、支払った保険料のほとんどを解約返戻金として受け取ることができる高い解約返戻率を誇りながらも、国税庁からの規制の対象となる保険に該当しないように商品設計されているため、その支払った保険料の全額が損金算入できるというものです。

 

こんな「抜け穴」を突くような保険を保険会社が「節税」のために販売することに疑いを隠せないです…

巷でも販売当初より国税庁の規制がかかるのは時間の問題と言われてきました。

 

当たり前ですが…

 

これまでも、保険会社が、国税庁の規制の対象とならない、支払った保険料の全額を損金算入することができる保険を開発すれば、それをまた国税庁が規制する、という「イタチごっこ」が続いていました。

 

なにが問題かというと、本来の目的を逸脱すること、かと思います。

保険は本来、「相互扶助」を目的とするためのものです。

保険会社も経営が厳しいのはわかりますが、社会全体のためになる保険を開発して、販売してほしいものです。

 

 


今回の改正案は?

改正案のポイント

 

今回の改正案のポイントは以下の4点です。

 

  1. 最高解約返戻率によって損金算入額が変わること
  2. 最高解約返戻率が85%超の場合には、より損金算入が制限されること
  3. 資産計上した金額は一定の据え置き期間経過後でないと取り崩して損金算入
    できないこと
  4. すでに締結済みの保険契約についてはさかのぼって適用されないこと

 

対象となる保険契約

 

以下の定期保険又は第三分野保険がん保険など)が今回の改正案の対象となります。

 

法人が、自己を契約者及び受取人とし、役員又は使用人(これらの者の親族を含
みます。)を被保険者とするもので以下の要件を満たすもの

 

  1. 保険期間が3年以上のもの
  2. 最高解約返戻率が50%を超えるもの

 

ただし、最高解約返戻率が70%以下で、かつ、被保険者一人当たりの年換算保
険料相当額(支払保険料総額÷保険期間の年数)が20万円以下のものについて
は、これまで通り全損とします。

 

改正案の具体的な内容

 

最高解約返戻率に応じ、表中の3つに区分して資産計上期間、資産計上額及び取崩期間が明らかにされています。

資産計上期間においては支払った保険料の額のうち資産計上額を除いた金額を損金算入し、取崩期間においてその資産計上額を均等に損金算入していくこととなります。

 

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改正案の適用時期

 

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今回の改正については、改正通達の発遣日以後の契約に係る定期保険又は第三分野保険について適用されます。
改正通達の発遣日は早くても本年6月以降となる見込みです。
つまり、すでに契約済みの定期保険等の保険料については、これまでの取扱いにより、損金算入されます。

 

「節税保険」って実際どうなの?

 

これまで、いわゆる「節税保険」の改正案について内容をお伝えいたしましたが、個人的には「節税保険」はそんなに意味ないのかなと思っています。

 

その理由は以下の2つです。

 

  1. 保険料の支払いから解約返戻金の受取りまでの期間を通算してみると税金の支払額は変わらず、いわゆる「課税の繰延べ」でしかないこと
  2. 解約返戻金の受け取りより、保険料の支払いが先行することでキャッシュフローが悪化すること

 

1.について補足ですが、「課税の繰延べ」とは、「税金をいつ払うか問題」ということ。

要するに、税金の支払いを後伸ばしにできる、ということです。

資金繰りや、ファイナンス思考からは、確かに有利ですが、積極的にやるようなことではない気がします。

 

また、保険会社のセールストークでは、よく解約返戻金の受取りによる収入と退職金の支払いによる費用とが相殺されることで課税所得が生じないため節税効果があると説明されます。

 

保険料の支払い時には、税金を少なくできるし、解約返戻金の受け取り時にも、税金は増えませんよー、ということです。


しかし、解約返戻金の受取りがあってもなくても、退職金の支払いによる費用が課税所得を少なくする効果はあるため、本来の「課税の繰延べ」であるという本質に変わりはありません。

 

「節税保険」をうまく活用するためには、このような理由から、綿密なタックスプランニングとキャッシュフローの計画が必須となります。

 

また、前にも言った通り、保険は「節税」のためにあるのではありません。

当たり前ですが、保険を選ぶ際には、残されたご家族のため、万が一のため、という「本来の目的」を思い出すことが大事だと思います。

 

おわりに

 

世の中には、「節税」を謳う商品で溢れています。

たしかに、税金の支払いを少なくすることは節約になりますので、積極的に行っていいことだと思います。

しかし、本来の目的や他への影響もしっかりと考慮して、目先の「節税」だけに走らないでください。

しっかり稼いで、しっかり税金を払って、社会に貢献することが一番なのですから!

 

それでは、読んでいただきありがとうございました!